大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和55年(ワ)2402号 判決

原告

坂井澄子

被告

株式会社三栄商事

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金四〇七万四一五〇円及び内金三七〇万四一五〇円に対する昭和五三年一二月四日から、内金三七万円に対する昭和五五年一〇月一〇日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して金一〇二七万八四三四円及び内金九二七万八四三四円に対する昭和五三年一二月四日から、内金一〇〇万円に対する昭和五五年一〇月一〇日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和五三年一二月四日午後一時四五分

(二) 発生場所 福岡市西区壱岐団地一六六〇―一先路上

(三) 加害車両 普通貨物自動車(福岡四四む一四二一)

(四) 運転者 被告 一森

(五) 保有者 被告 株式会社三栄商事

(六) 態様

被告一森が加害車両を運転し、福岡市西区拾六町方面から今宿方面に進行中、前記事故発生場所先の交通整理の行なわれていない交差点を右折進行するにあたり、左方から右方に母坂井トシ子に伴われて横断歩行中の原告(当時三歳)に衝突した。

(七) 傷害の部位、程度

原告は本件事故により全身打撲挫創、左下腿部皮膚欠損並潰瘍の傷害を負い昭和五三年一二月四日竹島整形外科、昭和五三年一二月五日から昭和五四年一月二五日まで倉重病院に入院(合計日数五二日)昭和五四年一月二六日同病院に通院、昭和五三年一二月二二日より昭和五四年八月一〇日まで福岡形成外科に通院した。

原告は左下腿皮膚欠損並潰瘍の治療のため、原告の左臀部の皮膚による皮膚移植の手術を受けたが、現在なお左下肢の露出面(ひざ関節とくるぶしとの間)に手のひらの大きさの醜いあとを残す後遺症が存する。

2  責任原因

(一) 被告一森は、前記加害車両を運転し、前記事故発生場所の交通整理の行なわれていない交差点を右折進行するにあたり、前方に横断歩道が設けられているのを認識していたのであるから、右横断歩道を横断する歩行者の右無を確認し進路前方を注視して進行すべき注視義務があるのにこれを怠り、前方を注視しないで右横断歩道に進入した過失により、前記事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条により損害賠償の責任がある。

(二) 被告株式会社三栄商事は加害車両の運行供用者であるから自賠法第三条による損害賠償の責任がある。

3  損害額

(一) 治療費等 金一三六万〇一五〇円

(1) 治療費 金一一四万一五八〇円(倉重病院金八五万四二四〇円、福岡形成外科金二八万七三四〇円)

(2) 入院雑費 金三万一二〇〇円(一日六〇〇円で五二日分)

(3) 入院付添費 金一三万円(一日二五〇〇円で五二日分)

(4) 通院付添費 金二万五五〇〇円(一日一五〇〇円で一七日分)

(5) 通院交通費 金三万一八七〇円

(二) 慰藉料(入通院分)金一〇〇万円

入院五二日、通院二三二日(皮膚移植を要する重傷である)

(三) 後遺症慰藉料 金六二七万円

原告には、左下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残す後遺症が存するが、更に原告は、左下腿皮膚欠損並潰瘍のため自己の左臀部の皮膚による皮膚移植をなしたが、左臀部全体の広範囲に醜状の瘢痕が存する。原告は、現在幼稚園に通園中であるが、右醜状の瘢痕のため水泳の時間に水着に着替えるのを極度に嫌つている。

原告が、思春期をむかえればその精神的苦痛は益々増大し、結婚に際しては右醜状の瘢痕が重大な支障となることは明らかで、原告の受けた精神的打撃は外貌に著しい醜状を残すものに相当するのである。

(四) 後遺症逸失利益 金六四万八二八四円

原告は、右後遺症により、一八歳から六七歳までの就労可能期間中五パーセントの労働能力を喪失した。これによる逸失利益を昭和五三年度賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計の女子労働者の学歴計の給与額により算出すると、次の計算式のとおり、金六四万八二八四円となる。

1,413,000円×5/100×9.176=648,284円

(五) 弁護士費用 金一〇〇万円

原告法定代理人らは、原告訴訟代理人らに対し、本件訴訟の提起追行を委任し、福岡県弁護士会報酬規程の範囲内で金一〇〇万円を弁護士手数料として支払うことを約した。

4  結論

よつて、被告らは、原告に対し、連帯して本件交通事故による損害賠償金として金一〇二七万八四三四円及び内弁護士費用を除く金九二七万八四三四円に対する事故発生日の昭和五三年一二月四日から、内弁護士費用の金一〇〇万円に対する本訴状送達の翌日である昭和五五年一〇月一〇日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(六)の事実は認める。(七)のうち原告にその主張のような潰瘍を生じた点は知らないが、その余は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3のうち、(一)の(1)、(2)の事実は不知。その余はすべて争う。入院付添費のうち、原告がその母親の坂井トシと同時に入院していた二一日間については、同人との間で家事手伝分相当額を同人の損害に含めて既に示談が成立しているから、その間の付添費用は認めるべきではない。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の(1)ないし(6)の事実及び(7)のうち原告に潰瘍を生じたとする点を除くその余の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証の三、第二ないし第四号証に証人斉藤博臣の証言を総合すると、原告は、本件事故により左下腿に皮膚欠損と並んで潰瘍の傷害を負つた事実を認めることができる。

二  責任原因

請求原因2の事実は当事者間に争いがない。

三  損害額

1  治療費

成立に争いのない甲第六ないし第八号証によれば、原告は訴外倉重病院に対する治療費として八五万四二四〇円、同福岡形成外科に対する治療費として二八万七三四〇円の合計一一四万一五八〇円を要したことが認められる。

2  入院雑費

原告が、五二日間入院したことは当事者間に争いがなく、右入院期間中一日六〇〇円の割合による合計三万一二〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

3  入院付添費

原告は、入院時三歳の幼児であるから、右入院中全期間にわたり付添看護を要したことが明らかである。ところで、原告法定代理人坂井トシの供述及び弁論の全趣旨によれば、原告の付添看護は右トシがしたが、昭和五三年一二月四日から二一日間は、同人も本件事故による受傷のため原告とともに入院中であり、かつ右トシの損害については入院期間中の家事手伝費用相当分を含めて既に調停が成立していることが認められるから、これにより右期間中の同人の付添看護費も実質上填補されているというべきである。そこで、原告に対する入院中の付添看護費としては、右二一日間を除くその余の三一日間について、一日二五〇〇円の割合による七万七五〇〇円が相当である。

4  通院付添費

前掲甲第六ないし第八号証及び法定代理人坂井トシの供述を総合すれば、原告は、倉重病院に一日通院した他福岡形成外科に計二二日通院したこと、少くとも福岡形成外科への通院にあたつては付添を要し、右トシが付添つたこと、通院には一日あたり平均三時間を要したことが認められ、その費用は一日あたり一〇〇〇円、合計二万二〇〇〇円と認めるのが相当である。

5  通院交通費

原告法定代理人坂井トシの供述及びこれにより成立の認められる甲第五号証の一ないし一一によれば、原告の通院のためタクシー料金として二万七一九〇円、バス料金として四六八〇円の合計三万一八七〇円を要したことが認められる。

6  後遺症逸失利益

原告の左下肢の膝関節とくるぶしとの間に手のひら大の醜状瘢痕が存在することは、当事者間に争いがなく成立に争いのない甲第一号証の一ないし三及び証人斉藤博臣の証言によれば、原告の左下肢に対する皮膚移植手術のため、原告の左臀部の約三分の二位の範囲にわたり、醜状瘢痕が生じており、これらの瘢痕は将来再手術等により軽減させることは可能であるが、完全に消失させ得るものではないことが認められる。

ところで、原告は、右後遺症の存在により労働能力の一部を喪失したとして、これによる逸失利益を損害として主張するが、原告の後遺症の部位、程度に原告が三歳の幼児であり、将来の再手術によつて瘢痕を軽減させ得ることが見込まれることなどを考慮すると、原告が就労可能年齢に達した以降、右後遺症が、原告の精神的、肉体的活動機能を客観的に阻害し低下させるものとは直ちにいい難いから、原告の右後遺症による労働能力の一部喪失を認めることはできないものというほかはない。

7  慰藉料

原告は、本件事故時満三歳の女子であるが、既に述べた後遺症が、将来にわたり社会生活上の諸場面において原告にもたらす精神的苦痛は、決して少ないものとはいえないこと、成立に争いのない甲第四号証及び証人斉藤博臣の証言によれば、原告の瘢痕を軽減させるためには、今後二回程度の形成手術が必要であり、その費用も相当な金額を要することが認められること、その他、原告の受傷の程度、入、通院期間等本件に顕れた一切の事情を斟酌すると、原告に対する慰藉料としては金二四〇万円が相当でこる。

8  弁護士費用

原告法定代理人坂井トシの供述によれば、原告は、被告らが本件損害賠償請求につき任意の弁済に応じなかつたので、弁護士である原告代理人らに本訴の提起と追行を委任し、同代理人らに対し、弁護士報酬を支払うことを約束したことが認められるが、被告らが賠償すべき弁護士費用は、本件事案の内容・審理の経緯・損害認容額等に照らし、金三七万円を相当と認める。

五  結論

以上によれば、原告の被告らに対する請求は、金四〇七万四一五〇円及び内金三七〇万四一五〇円(弁護士費用を控除した額)に対する本件事故発生の日である昭和五三年一二月四日から、内金三七万円(弁護士費用)に対する本訴状送達日の翌日である昭和五五年一〇月一〇日から、各支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺尾洋)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例